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No.038MITSUKARU STORIES飲食福岡県 北九州市 門司区2026.11.05

「一杯で心まで温めたい」緑香る手打ち麺に情熱を宿す。よもぎうどん やなぎ・店主の心意気

よもぎうどん やなぎ

昭和の風情が色濃く残る、北九州市門司区柳町の商店街界隈。どこか懐かしい街並みを歩くと、ふわりと心地よい出汁の香りが鼻腔をくすぐる。その香りを辿った先にあるのが、「よもぎうどん やなぎ」だ。

暖簾をくぐると、湯気の向こうから快活な挨拶が響く。鮮やかな深緑色の麺と、琥珀色に澄んだ出汁。この地で多くの人々の胃袋と心を満たしてきた一杯には、店主が積み重ねてきた試行錯誤の歴史と、飾らない情熱が静かに息づいている。

理想の麺を追い求めて──試行錯誤から始まった原点

店主がうどんの道を志した背景には、「日常の中で誰からも愛され、心底ほっとできる本物の味を届けたい」という強い原体験があった。独立前、様々な飲食の現場を経験する中で、効率やスピードばかりが重視される現代の食文化にどこか疑問を抱いていたという。

「手軽に食べられるファストフードのようなうどんも良いけれど、自分が目指したかったのは、食べた瞬間に体の奥から力が湧いてくるような一杯だった」

独立を決意した際、着目したのが北九州の食文化として親しまれてきた「よもぎ麺」だった。しかし、その道は平坦ではなかった。よもぎ特有の野趣あふれる香りを生かしつつ、うどんとしての喉越しやコシを両立させることは容易ではない。粉の配合や水加減、練り込みの力加減ひとつで、麺の表情は全く変わってしまうからだ。

何度も試作を重ねては打ち直す日々。時に思い通りの食感が出ず、頭を抱えたこともあったという。それでも諦めずに粉と向き合い続けたことで、現在の香り高く力強い弾力を持つ独自の麺へと辿り着いた。

香りと旨みが重なり合う──「やなぎ」が貫く仕事の真髄

「よもぎうどん やなぎ」の一杯には、細部に至るまで職人のこだわりが宿っている。麺の仕込みから出汁の抽出、具材の炊き上げまで、どの工程にも一切の妥協がない。

提供されるうどんの魅力を紐解くと、いくつかの揺るぎない軸が見えてくる。

  • 鮮烈なよもぎの薫香:厳選したよもぎを贅沢に練り込み、噛むほどに清々しい香りが口いっぱいに広がる特製麺。
  • 重層的な深みを持つ出汁:昆布や削り節を贅沢に使い、よもぎの個性に負けない力強さと上品な後味を両立させた黄金色のつゆ。
  • じっくり煮込んだ肉の旨み:甘辛いタレでホロホロになるまで煮込まれた肉が、スープに濃厚なコクと滋味をもたらす。

毎朝の仕込みは、天候や気温の微細な変化を見極めるところから始まる。

  1. その日の湿度に合わせて小麦粉と水、よもぎの配合比率を微調整する
  2. 麺の熟成時間を見極め、最もコシと滑らかさが際立つ状態で茹で上げる
  3. 抽出温度を厳密に管理した出汁と合わせ、出来立ての最高の状態で提供する

「特別な魔法なんてない。毎日、目の前の素材と真面目に向き合って、当たり前の仕事を丁寧に繰り返すだけ」

そう淡々と語る店主の横顔には、職人としての確固たる自負が滲んでいた。

湯気の向こうにある対話──日常に寄り添う温かな居場所

店主が何よりも大切にしているのは、カウンター越しに交わされる客とのささやかな心の触れ合いだ。訪れる客層は、近所に暮らす常連のお年寄りから、仕事合間の会社員、噂を聞きつけて遠方から訪れる愛好家まで幅広い。

一人ひとりの顔を覚え、「今日も寒いね」「お仕事お疲れさま」と自然体で声をかける。その気取らない温かさがあるからこそ、店内にはいつも穏やかな空気が満ちている。

「お腹を満たすだけなら、どこでもいいかもしれない。でも、暖簾をくぐってここに来てくれた人には、少しでも元気になって店を出ていってほしい。うちの店が、誰かにとっての小さな拠り所になれれば一番嬉しい」

丼に添えられる生姜の爽やかな辛みと、芳醇な出汁の余韻。食べ終える頃には、心身ともにじんわりと温もりに包まれていることに気づく。

門司の街とともに──これからも変わらぬ一杯を打ち続ける

街の風景が時代とともに少しずつ姿を変えていく中でも、店主の眼差しはぶれることがない。今後の目標を尋ねると、華美な言葉ではなく、地に足の着いた誠実な答えが返ってきた。

「規模を大きくしたいとか、有名になりたいという欲はありません。ただ、この柳町という大好きな街で、信頼して通ってくれるお客さんのために、明日も明後日も変わらず美味いうどんを打ち続けること。それが私の役目だと思っています」

緑鮮やかな一杯に注がれた情熱と、誠実なもてなしの心。門司の街を訪れたなら、ぜひ暖簾をくぐり、その実直な味わいと温かな空気感に触れてみてほしい。

取材・文=みつかるグラム編集部

この記事の店よもぎうどん やなぎ〒800-0025 福岡県北九州市門司区柳町1丁目7-24
09:00–15:00 / 水曜定休
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